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「メトロノーム」

小さな、小さな繭のように。
小さな、小さなカタツムリのように。

ゆっくりとメトロノームがまた動き始めた。
止まりだした世界の始まり。


雨の中で寂しさを紛らわせ、ゆっくりと目を閉じた。

涙じゃなくて、雨だと言い聞かせて。
蝸牛のような強がりで優しい人。
繭に閉じ籠った私を救ってくれた人。

「ねぇ、聴いてる?」

あなたの口癖だった。
少しだけ微笑んでごまかす私をいつも笑って許してくれた。

幸せは長くはなかった。
遠い、遠い、空彼方。
私と引き換えに遠くにいってしまった。
あなたがいないと駄目なのに。

「もう大丈夫。」

開き始めた繭がまた閉鎖される。
世界が壊れ始まりそうだった。

「大丈夫。」

何度も言い聞かせる。

静かにメトロノームが止まった。

白い灰のように。
綺麗な空に舞い散りたい。
白く、白く。

白く濁った空、寂しげな表情の雨。
真っ直ぐな地平線。
私はあなたのやり残した世界を生きようと思う。

​末永鶏

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